エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』ノート
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エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』 ノート



          第5章 逃避のメカニズム


 心理学的前提の妥当性 ⇒ すべての論議の正当性を支える

 個人心理学や、個人の綿密な精神分析的研究観察例

 ・神経症的、正常的、健康な、などの言葉の吟味

   社会の立場からの定義┐
   個人の立場からの定義┘ 二つの概念のあいだの必然的分裂
                          ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ◎逃避のメカニズム──孤立した人間の不安定性に由来

   強制的性格、個性と自己の統一性との完全な屈服
    →この解決は幸福と積極的な自由へと導くものではない

   ファシズム体制と近代デモクラシー = 文化的に重要なメカニズム


1.権威主義

 自由からの逃避の最初のメカニズム
 ⇒ 失われた第一次的絆のかわりに、新しい「第二次的」な絆を求める

  このメカニズムは
  ・服従と支配への努力
  ・マゾヒズム的およびサディズム的努力
  という形で明瞭にあらわれる。
  ─→ いずれも、たえがたい孤独感からの逃避

・マゾヒズム的努力・傾向
 −劣等感、無力感、個人の無意味さの感情としてあらわれる
   ↑
   └外側の力の、現実的な、あるいは確実と考えられる秩序への服従

  マゾヒズム的努力のさまざまな形のねらい
  ⇒ 個人的自己から逃れること、自分自身を失うこと、
    いいかえれば、自由の重荷から逃れること

 −マゾヒズム的解決
   たえがたい状況から起こり、それに打ちかとうとするが、
   しかし結局、個人を新しい悩みのなかにとらえたまま残す

 −マゾヒズムの非合理性……解決法が非生産的
  継続しがたい感情的状態を解決するための方法が、究極的に非生産的

・サディズム的傾向
 ……三つの種類
   1) 他人を自己に依存させ、絶対的無制限的な力をふるい、
     完全に道具とする。
   2) 他人を絶対的に支配しようとするだけでなく、かれらを
     搾取、利用し、ぬすみ、はらわたをぬきとる。
   3) 他人を苦しめ、または苦しむのを見ようとする。

  サディズム的傾向は、マゾヒズム的傾向よりもいっそう無意識的で、
  合理化されることが多い。
  ─→他人(あるいは他の生物)を完全に支配することの快楽

・マゾヒズムとサディズムの2つの傾向
  一つの 根本的な要求のあらわれ
  ……耐えがたい孤独感、無力感から逃れたい。すなわち、
    孤独に耐えられないことと、自己自身の弱点とから
   逃れ出ることの要求。
 |
 └→共棲……互いに自己自身の統一性を失い、完全に依存しあうように
       自己を他人と(または外側のどのような力とでも)一体化

       〔自己の統一性の破壊と完全な依存〕

  従って、マゾヒズム的人間もサディズム的人間も対象を必要とする。

・権威主義的性格 ← サド・マゾヒズム的性格
  |  外的権威、内的権威、匿名の権威
  |             ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  └→特徴 

    −すべての存在を、力をもつもの、もたないものの二つに分ける

    −人生が、自分自身や、自分の関心や希望をこえた力によって
     決定されているという確信

    −根本的な無力感にもとづく行動、忍耐と服従の「勇気」、
     疑惑の補償としての信念

    −相対主義的、虚無的 → ニヒリズム、生命の否定

・サド・マゾヒズム的追求

  おだやかな依存の形式
  ……「魔術的助け手」を求める欲求 ← 共棲的衝動と同じ

  期待がはずれたとき ⇒ 失望を伴う
  しかし、その失敗は、
  決して正しい魔術的助け手を選ばなかったことによるものではない。

  それは自発的行動によってのみ達成できる(←→自然発生性)


2.破壊性

  サド・マゾヒズム的追求との関連と差異
   差異……対象との共棲をめざすものではなく、
       対象を除去しようとする

  破壊性の2つの種類

   a)特別な状況を原因とするもの
     ……合理的な「反作用的」な敵意←┐
             自然的、必然的─┘

   b)非合理的な破壊性
     ……人間のうちに潜んでおり、機会を狙って
       待ち構えているような一つの傾向

   ここではb)の非合理的な破壊性を問題とする

    破壊性の比重……各個人、各集団で異なる
    破壊性   ……生きられない生命の爆発
           (外界が脅威的なものとならないように破壊)

    下層・中産階級の破壊性 ⇒ ナチズム勃興の主要な要因


3.機械的画一性

  個人が自分自身であることをやめる
  =自己の喪失、自動人形、自動機械

  我々の思考、感情、意志の内容
  ……外部から導入されたもので┐という事実が
    純粋なものでない    ┘    顕著

  にせものとほんもの

・重要な点は、なにが考えられているかではなく、
       どのようにそれが考えられているかということである。

・独創的な行為

 −合理化……現実を洞察する手段でなく、
       現実と自分自身を調和させようとする事務的試み

 −抑圧 ……にせの行為の問題との結合

・思考、感情、意志について

  本来の行為がにせの行為に代置されることは、遂には
  本来の自己がにせの自己に代置されるところまで進んでいく。

・自己の喪失とにせの自己の代置=自動機械
      |
      ↓
   激しい不安・無力感
      |
      ↓
   安定を与え、疑いから救ってくれる、
   新しい権威にたやすく従属………………ナチズム


                         (堀場康一 記)
    






(Ver. 1.0 2005/06/03)
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