行政評価・監視機関の設立プログラム 【目次】 【まえおき】 【I】 【II】 【III】(このページ) 【IV まとめ】 【参考リンク集】

行政評価・監視機関の設立プログラム
─行政の質的向上のために─

World Atlas

III.その他の検討課題

 実際に作業を進めていく段階で、検討し解決しなくてはならない課題はいろいろあります。本文を補足する形で、以下にその他の検討課題を記します。

1.行政評価・監視機関と類似の機関・団体との機能比較

 国および地方自治体の行政機関あるいは非営利団体などで、行政評価・監視・監査機能が担当業務の中に含まれている「類似の」機関・団体と、筆者がここで提案している「行政評価・監視機関」との、機能比較を行う必要があります。

 また、現在、行政監視・監査関連の行政機関や部署で何らかの行政評価システム、行政チェックリストおよび管理マニュアルを内部的または業務用に作成、使用しているとすれば、それらの行政評価システムやチェックリストや管理マニュアルをひととおり提供していただくように手配します。そしてこれらの資料は、広く通用する行政評価システムおよび行政チェックリストを立案・策定し、行政管理マニュアルを制作する際のたたき台として活用します。
 以上の作業を通じて、「類似の」機関・団体の役割分担を明確にします。

2.関連行政機関の統廃合

 「行政評価・監視機関」を新たに設置する場合、現在活動中の国や地方の「類似の」行政機関との機能の比較検討にもとづき、不要もしくは統合できると考えられるものは、それぞれ統廃合するものとします。

 筆者の住んでいる名古屋市には、総理府総務庁の中部管区行政監察局があります。監査に関連して、愛知県には監査委員事務局があります。また名古屋市には監査事務局があり、財務事務等の監査を行っています(名古屋市発行『くらしのガイド─市政窓口案内』名古屋市市民局広報課編集、平成3年3月発行、367ページ所収、名古屋の組織より)。ここでの監査業務は、企業の監査部門と同じように、財政監査・会計監査が主体になっています。

 このような行政監察局、監査事務局などの、国および地方の既存の行政機関の統廃合、その機能や担当業務の変更・修正、指示・命令系統の再編成並びに明確化が課題になります。
 これらの行政機関の統廃合の手続き・方法は、現在取り組まれている行政改革プログラムの一つとして進行中の省庁統廃合の検討事項に含めるものとします。

 なお冒頭に引用した、民主党の〈行政監視院法案〉には、行政機関の統廃合の項目が含まれています。〈行政監視院法案の概要〉の9項には、

「9.総務庁設置法の改正(行政監察局の廃止)
(1)総務庁設置法の改正
  総務庁の業務から行政監察を削除し、行政相談業務は残す。
(2)国家行政組織法の改正
  国の行政機関の中から一局を削減。(付則第1条)=行政監察局を想定。
(3)行政機関の職員の定員に関する法律の改正
  国家公務員の総定員の上限を800人削減。(付則第2条)」

 とあります。また同概要の8項によれば、行政監視院の定員・予算は、

「8.行政監視院の定員・予算 (別紙2参照)
  行政監視院の定員  800人
  年間予算  67億円 」

 と記されています。これをみると、民主党案で設立が予定されている行政監視院の定員800人は、廃止予定の行政監察局の800人と一致していて、実質的には人員削減とならないようです。

 ここで民主党の〈行政監視院法案〉がその廃止の対象としている総務庁の行政監察局と、行政評価・監視機関との関係についてさらに言及しておきます。
 総務庁のホームページに行政監察局についての説明があります( http://www.somucho.go.jp/kansatu/kansatu.htm 参照)。それによると、行政監察局は政府の業務改善推進機関として位置づけられ、その業務は、

 「行政監察は、政府の内部統制・自己改善機能として、全国調査網(管区行政監察局及び行政監察事務所)を活用し、各省庁、特殊法人の業務や国の委任・補助に係る地方公共団体の業務の実態と問題点を調査し、その結果に基づき、改善方策を関係行政機関に勧告するものです。
 行政監察には、中央計画監察と地方監察とがあります。」(注8)……

 「中央計画監察は、総務庁本庁の行政監察局が企画し、管区局・事務所が現地調査を実施するもので、現地調査の結果に基づき、本庁で勧告を取りまとめ、公表しています。」……

 「地方監察は、管区局・事務所が、地域住民の生活に密着した行政上の問題を現地で具体的に改善することを主眼として実施するもので、調査結果に基づき、国の出先機関や地方公共団体に問題点と改善方策を通知しています。」

 とあります。これを見る限り、行政評価・監視という視点(とくに行政評価の視点)は明確にみえてきません。総務庁の説明にあるように「政府の内部統制・自己改善機能として」行政監察局が運用されていると考えてよいと思います。したがって、筆者の提案している行政評価・監視機関と業務上で重複する部分は比較的限られていると推察されます。

 (注8)
 ここに引用した行政監察に関する説明は、平成9年5月31日に行政監察局ホームページにアクセスしたときのものです。平成9年8月25日の同ホームページ・アクセス時には、この説明文は次のように修正変更されていました。

「行政監察は、社会経済の変化に対応して行政の役割を見直すとともに、行政の総合性・効率性・公正性を確保する観点から、全国調査網(管区行政監察局及び行政監察事務所)を活用し、各省庁、特殊法人の業務や国の委任・補助に係る地方公共団体の業務の実態と問題点を調査し、その結果に基づき、改善方策を関係行政機関に勧告することによって行政の改革・改善を推進するものです。
 行政監察には、中央計画監察と地方監察とがあります。」

 両者を比較すると、新しい説明文では、「政府の内部統制・自己改善機能として、」が「社会経済の変化に対応して行政の役割を見直すとともに、行政の総合性・効率性・公正性を確保する観点から、」に、そして、「改善方策を関係行政機関に勧告するものです。」が「改善方策を関係行政機関に勧告することによって行政の改革・改善を推進するものです。」に、それぞれ変更されています。
 このようにことばづかいが改められたのは、政府の行政改革プログラムの進展につれて、各部署での業務見直しがすすんでいることを反映しているものと思われます。
 ただし、ことばづかいが変わっても、「政府の内部統制・自己改善機能として」の行政監察局の役割に大きな変更点はないと考えられます。また、行政評価・監視という視点は、従来通り明確にみえてきません。

 民主党の〈行政監視院法案〉では、総務庁行政監察局の組織をそのまま行政監視院の組織として、多少の改変を加えて移行させようという意図が窺えますが、行政監察局の組織をそのまま行政評価・監視機関の一部門として活用するのはむずかしいと筆者は考えています。

 それよりも行政評価・監視機関が設立された段階で、行政評価・監視機関による行政監査(II.2.ハ項参照)に対応する事前監査(もしくは内部監査)を、この行政監察局に依頼し実施していただくことを検討してはどうかと考えます。これにより、行政機関自体の行政監査に対する日常的な気配り(daily alertness) がいちだんと高められると思われます。

(堀場康一) 

前頁 【II】     次頁 【IV まとめ】


(Ver. 1.0 2002/07/08)
Copyright (c) Koichi Horiba, 2002