行政評価・監視機関の設立プログラム 【目次】 【まえおき】 【I】 【II】(このページ) 【III】 【IV まとめ】 【参考リンク集】

行政評価・監視機関の設立プログラム
─行政の質的向上のために─

World Atlas

II.行政評価・監視機関の設立

1.組織化と組織形態

 行政評価のシステム化がある程度進展したとして、次の目標は行政チェックの実行団体・組織すなわち行政評価・監視機関の組織化です。
 上述の民主党の〈行政監視院法案〉には、

「第三章 権限
第一節 国の行政機関の業務に関する監視等
(国の行政機関の業務に関する監視)
第十八条 行政監視院は、各議院の常任委員会若しくは特別委員会又は参議院の調査会(以下「常任委員会等」という。)の要求に応じ、必要な期間継続して、当該要求に係る国の行政機関の業務に関し、必要な監視を行うことができる。(2以下略)
(第二節 略)
第三節 資料の提出の要求等
(資料の提出の要求)
第二十三条 行政監視院は、前二節の監視又は意見具申のため必要があると認めるときは、国の行政機関、地方公共団体その他の者に対して、資料の提出を要求することができる。(以下略)」

 とあり、また〈行政監視院法案の概要〉では、いい方を変えて、

「4.行政監視院の権限
(1)国の行政機関の業務に関する監視(行政監視機能)
 各議院の常任委員会、特別委員会、または議案提案権を持つ衆院21人以上、参院11人以上の議員の要求に応じて、必要な監視を行う。(第18─20条)
(2)法律の制定、改廃等に関する意見具申(政策評価機能)……(以下略)
(3)資料提出の要求
 行政監視院は、監視・調査のため必要な資料の提出を国の行政機関、機関委任事務を行う地方公共団体、国の補助金等を受ける特殊法人、公益法人、民間企業、NGOなどに求めることができ、国の行政機関、地方公共団体は、要求から20日以内に資料を提出しなければならない。(第22条)……(以下略)。」

 と説明されています。これらの条項によれば、この民主党法案は国の行政機関=国政の監視を対象としていて、地方行政は直接の対象としていません。

 平成8年暮れから平成9年にかけてのロシア籍タンカー、ナホトカ号の重油流出事故および日本海沿岸での重油処理作業、あるいは、動力炉・核燃料開発事業団(動燃)関係の平成7年12月8日発生した高速増殖原型炉もんじゅ(福井県敦賀市)の二次冷却系ナトリウム漏れ事故および平成9年3月11日発生した東海事業所(茨城県那珂郡東海村)の再処理施設アスファルト固化処理施設の火災爆発事故をみても、国政と地方行政が切り離せないものであることは明らかです。この点を考慮すると、行政監視の対象を国政のみに限定することは、行政監視自体が中途半端に終わる可能性があります。

 以上のことから、「国政と地方行政の双方を対象とした行政評価・監視機関を、政府および地方公共団体の補助金をもとに、国会の付属機関としてでなく、非営利団体として新たに別途設立する方が望ましい」と筆者は考えます。

 この行政評価・監視機関を国会の付属機関でなく別の独立組織とすることで、組織として動きやすくし、フレキシビリティをもたせることができます。そして、この組織には、従来の市民オンブズマンのような組織・団体を一部に取り込むものとします。また、おもな仕事が行政評価・監視ということですから、国会・内閣・司法分野の現役の議員・職員の方々にもオブザーバーあるいは顧問として参加していただき、何らかの形でサポートをお願いすることになろうと思います。

2.基本業務

 行政評価・監視機関の基本的な業務として、当面次の五つが考えられます。

イ.日常的な行政監視

 行政指標や行政チェックリスト等を活用しながら、国政および地方行政を日常的にチェックし、監視します。もしも望ましくない状況すなわち不具合が発生した場合には、随時行政の各担当部署と連絡をとり、早急に修正、改善するように指導、改善勧告、研修、教育等を行うものとします(注5)
 なおここでの不具合対策は、後述ハ.の行政監査において、監査結果の評価点が合格点に達しない場合の対策・処置方法に準じます。

 (注5)
 担当業務は、指導、改善勧告、研修、教育等までとします。ここで改善勧告は強制力をもちません。また、行政モニタリングをもとに必要な法律を制定するというような立法行為(民主党の〈行政監視院法案〉にはこの考えがみられます。)、あるいは懲罰のような司法に関わる事柄(罰するべきか、罰せざるべきかのような判断行為も含む)は、いずれも行政評価・監視機関の業務から除外します。これは立法のものは立法に、司法のものは司法に、という考えに基づきます。

 ここで、行政評価・監視機関がその業務を通じて入手したもろもろの情報の処理について補足します。これらの情報のうち、立法や司法に直接関わるものについては、立法や司法の関係部署と協議してそれに対する対応を個別に取り決めるものとします。行政評価・監視機関が独自の判断で行動しないようにします。
 このことから行政評価・監視機関は、どちらかといえば行政府の外郭団体のような立場と考えた方がよいかもしれません。

 したがって、行政評価・監視機関自体にあいまいさは許されず、たえず公正な評価を行い、また、その評価の方法、評価の質についても日常的な研鑚・向上の努力、および行政機関やその他の人々を対象とする各種の広報、啓発活動が要請されます。

ロ.行政評価・監視に関する指導・教育

 各行政機関その他の依頼に応じて適宜、行政評価・監視に関する指導、研修、教育、セミナー等を実施、開催するものとします。

ハ.定期および不定期(追加)の行政監査

 国や地方の行政機関は、この行政評価・監視機関の職員の立会いのもとに、少なくとも年1回(可能なら年2回)定期的に行政監査を行うものとします。
 ただし行政上重大な不具合が発生または露見したときは、必要に応じて随時、行政評価・監視機関の職員の立会いのもとに、追加の行政監査を実施します。
 なお、各行政機関での1回の行政監査に充てる日数は、原則として3日以内におさえるものとします。

 この監査の結果、評価点が合格点(合格の目安となる点数をあらかじめ決めておきます。)に達した行政機関は、行政の現状がいちおう公に認定されたものとみなします。ただし、各行政機関により評価点に相違が生じることが予想されますので、自分の行政機関の評価点が現在どのレベルにあるかを把握、認識し、つねによりよい評価点をめざすことが各行政機関に求められます。

 一方、監査の結果、評価点が合格点に達しない場合は、次のアクションとして、不合格となった行政機関において問題点や不具合を洗い出し、個々の問題点・不具合に対する対策を立案し、さらに実施期限を決めて対策を実行することとします。そして、不具合対策の内容および対策を実行した結果を、行政評価・監視機関に報告し、承認を得るものとします。なお不具合対策が不十分な場合は、最終的に合格点が得られるまで、当該行政機関と行政評価・監視機関の間のこのようなやりとりを繰り返すものとします。

 これらの問題点の洗い出し、対策立案および期限付き実行は、製造メーカー等で品質管理の一環として一般に実施されている品質監査のやり方に準じます(注6)

 (注6)
 品質管理は本論と直接関係はありませんが、前項1(組織化と組織形態)で触れた平成9年3月中旬の動燃の事故が問題になっている折でもありますので、ここで少々言及します。
 筆者自身は、エネルギー資源の現状を見る限り、当面原子力発電所は必要であると考えます。その上で今回の動燃のアスファルト固化処理施設の事故を眺めたとき、作業および作業員の安全確保に対する配慮が欠けていたように思われてなりません。
 作業および作業員の安全確保は品質管理の大前提です。これなくして、品質管理、品質保証、品質の向上はありえません。たまたま筆者は前に勤めていた会社で品質管理を担当させていただき、作業および作業員の安全確保が品質管理の大前提としてあることを、身をもって知りました。

 科学技術庁は第三者で組織する動燃改革検討委員会の設置を平成9年4月11日発表しましたが、動燃における品質管理体制も当然調査、改善の対象になると思われます。その際、工場周辺の地域や環境に対する有害な影響の排除および安全性の確保は言うまでもありませんが、それとともに品質管理の大前提として作業および作業員の安全確保があることを忘れないでいただきたいと思います。

 なお動燃改革検討委員会は、第6回会合(平成9年7月30日開催)を経て、報告書「動燃改革の基本的方向」を発表しました。その全文が科学技術庁ホームページ(現・文部科学省 http://www.mext.go.jp/ )のなかに収録されており、参照できます。
・「動燃改革の基本的方向」(動燃改革検討委員会 平成9年8月1日)
 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/kagaku/kondan21/tokai_2/708013.htm

 この報告書では、「第1部:動燃改革の基本認識」「第2部:動燃改革の基本的考え方」「第3部:改革の実現に向けて」に分けて、動燃改革に向けた包括的な議論を展開するとともに、本委員会とは別の作業部会の設置を提案しています。

 一方この報告書以降も、平成9年8月26日に、動燃 東海事業所の低レベル廃棄物貯蔵施設で長年にわたる放射性物質の水中への漏出が判明するなど、克服すべき課題は依然多いように見受けられますが、これ以上の言及はここでは差し控えます。

ニ.行政管理マニュアルの制作

 イ、ロ、ハ項の業務経験をもとに、国および地方の各行政機関がそれ自体を管理する上で役立つ、行政管理マニュアルを立案、作成します。そして、このマニュアルに沿った行政管理を、国および地方の各行政機関が行うことができるように、指導・研修・教育等を行います(注7)

 (注7)
 行政管理マニュアル制作にあたっては、ここ数年来、企業がその資格認定を取得することを目標としている品質保証の国際規格ISO9000シリーズ(国際標準化機構 International Organization for Standardization により制定)を参考とします。いわば行政の「品質」を保証するという考え方が、行政機関全体に浸透することが、行政の質的向上および改善のかぎとなると思われます。

ホ.行政評価システムの整備

 行政評価のシステム化を通じて創出された、行政評価システムを整備する作業を行います。すなわち、行政評価の手法・基準の定式化と、行政指標および行政チェックリストのおのおのにつき、日常の業務経験に照らして随時見直し、再検討し、洗練していくものとします。

 行政評価システムに関していえば、行政評価・監視機関発足時にすでに完成されたものがあるというよりは、行政評価・監視機関の業務を通じて、徐々に改良され整備されていくと考えた方がよいでしょう。

3.収入源

 行政評価・監視機関は非営利団体ではありますが、政府や地方公共団体の補助金のほかに収入源やスポンサーを確保しなくてはなりません。スポンサーは別として、収入源として考えられるものを列挙します。

行政の不具合の修正・改善のための指導、改善勧告、研修、教育等に要する経費は、コンサルティング料のような形で、受入れ側の行政機関が一部負担するものとします。(負担の割合については別途取り決めます。)
行政機関その他からの依頼による行政評価・監視に関する指導、研修、教育、セミナー等は有料で実施。ただし、行政評価・監視機関の啓蒙、宣伝という意味で、これらを有料でなく、場合により無料で行ってもよいこととします。
行政監査の費用は有料とします。
行政管理マニュアルが出来上がったならば、行政機関および一般の人々に販売することとします。(行政監査の対象となる行政機関への配布を有料にするか無料にするかは別途検討。)さらに、ビデオやパソコンソフトなどに編集して、販売することも考慮します。
行政評価システムの整備により、その成果が行政評価・監視の現場以外にも様々に利用できます。当面は行政評価システム(ハードおよびソフト)を部内で業務に使用することになりますが、将来的には、その評価システムを改善して第三者に貸与したり、販売したり、システムコンサルティングを行ったりすることにより、システム貸与料、システム売上げ、コンサルティング料などの収入が想定されます。

4.職員数と本部・事務所

 行政評価・監視機関の職員数はせいぜい100〜150人程度(国政担当50〜75人、地方行政担当50〜75人程度)とします。職員数を少なくおさえることは、行政評価のシステム化を行政機関全体に浸透させ、行政監査などで得られた結果をデータベース化し分析評価を綿密に行い、その結果をさらに評価手法や行政指標および行政チェックリストに反映し洗練させていくことで十分可能になると考えます。
 職員でカバーできない仕事は、外部の民間会社・団体、研究機関などに委託・発注することとします。

 行政評価・監視機関の本部はさしあたり首都圏におき、将来的には、各都道府県に小人数の地方事務所を設置することになろうと思われます。

(堀場康一) 

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(Ver. 1.0 2002/07/08)
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