行政評価・監視機関の設立プログラム 【目次】 【まえおき】(このページ) 【I】 【II】 【III】 【IV まとめ】 【参考リンク集】

行政評価・監視機関の設立プログラム
─行政の質的向上のために─

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まえおき

 現在行政改革が政治の中心に位置し、橋本内閣総理大臣の指揮下、各種の行政改革プログラムが同時進行しています。
 ところで、平成8 (1996) 年11月29日〜12月18日開催の第139臨時国会で、民主党より〈行政監視院法案〉が提出され、筆者もその成り行きに関心をもっています。この〈行政監視院法案〉を手がかりに、行政評価および行政監視(モニタリング)について考えてみたいと思います(注1)

 (注1)
 民主党の行政監視院(日本版GAO)法案に対し、自由民主党は平成9年4月に対案をまとめ、それをもとに自民、社民、さきがけの与党三党と民主党との四党協議で、自由民主党と民主党が互いに譲歩し、行政監視につき基本的に合意しました。これによると、衆院決算委員会を改組し40人規模の「決算行政監視委員会」を設け、同委員会で行政に関する独自の調査をし、会計検査院との連携や省庁への改善勧告の機能を持たせるとのことです。
 この「決算行政監視委員会」を中心とした委員会方式は、行政監視という観点からは、民主党の行政監視院より一歩後退した案だと考えられますので、本稿では、この委員会方式に対する考察は除外させていただきます。
 なお、民主党提出のこの行政監視院法案は、第140通常国会(平成9年1月20日〜6月18日開催)の閉会とともに、審議未了で廃案の扱いを受けています。

 さて民主党の〈行政監視院法案〉は、民主党ホームページ( http://www.dpj.or.jp/ )に収録されていて、ブラウザで閲覧することができます。法案の参照URLアドレスは次のとおりです。
・行政監視院法案(全文)
  http://www.dpj.or.jp/data/100/BOX115.html
・行政監視院法案の概要
  http://www.dpj.or.jp/data/100/BOX114.html

 この民主党〈行政監視院法案〉の目的には、

「第一章 目的及び設置
 第一条 国会が国権の最高機関であって国の唯一の立法機関であることにかんがみ、国会による行政の監視及び立法に関する機能の充実強化を図り、もって民意を反映した国政の健全な発展に寄与するため、国会に、国の行政機関の業務に関する監視、調査及び評価を行うとともに、その結果に基づいて必要な法律の制定及び改廃等に関して意見を述べる行政監視院を置く。」

 とあり、また〈行政監視院法案の概要〉には、

「国民の代表であり国権の最高機関である国会(立法府)が、行政を継続的に監視、調査し、政策評価をするチェック機能を補佐するため、国会付属機関として『行政監視院』を設置し、公正な立場から行政のモニタリングを行い、その結果に基づいて、必要な法律の制定、改廃、予算等の審査に関して国会に対し意見具申できるようにすることで、国会の立法機能の向上を図ることを目的とする。」

 と説明されています。ここで気がかりな点もしくは問題点をあげます。

(1) 公正な立場から行政のモニタリングを行うとありますが、その作業を行うための「行政評価の手法・基準」として何を採用もしくは使用するのか、明確でありません。
(2) 国政を担当する最高機関である内閣の構成員は内閣総理大臣と国務大臣です。前者は国会議員のなかから選ばれます。後者の国務大臣は、最近では民間からの登用も見受けられますが、党派は別として、通常国会議員から選ばれることが多いです。このような背景において「国会付属機関として『行政監視院』を設置」するというのは、国政レベルに限っていえば、国会─国会議員という枠内の循環論法 (vicious circle) になる可能性があるという危惧があります。いいかえれば、国会という枠を離れた第三者による行政監視に対する配慮が足りないといえます。

 一方、平成8年12月25日閣議決定された「行政改革プログラム」( http://www.somucho.go.jp/gyoukan/kanri/program2.htm 参照)を拝見しますと、その前文に、

「(i)  新時代に対応できる簡素で効率的な行政の実現、
 (ii) 国民の主体性を尊重する行政の実現、
 (iii) 国民に開かれた信頼される行政の実現及び、
 (iv) 国民に対する質の高い行政サービスの実現
を目指し、原則今世紀中に思い切った行政改革を計画的に実施することとし、……」

 とあり、同「行政改革プログラム」の第1章から4章には、行革を通じて実施したいとする次のような各論の実施予定項目があげられています。

(i) 関連……中央省庁改革、行政組織等の合理化等、特殊法人等の整理合理化、行政監察、人事管理、補助金等の整理合理化
(ii) 関連……規制緩和の推進、地方分権の推進、公的部門と民間部門の活動領域の見直し
(iii) 関連……行政情報公開の推進等、行政及び公務員に対する信頼回復
(iv) 関連……申請等に伴う国民負担の軽減、行政の高度情報化の推進

 これらの項目は、政治・経済・社会状勢の変化・推移に応じて対処の仕方が微妙に、ときにはドラスチックに、変化したりもしくは変化せざるをえないという意味において、「原則論」すなわち行政の評価・判定・判断の手法および基準に関する論議・取り組み、というよりは「各論」であると筆者は捉えています。
 ところで、この「行政改革プログラム」をみますと、各論、各項目の実施計画・目標が詳述されていますが、
(i) 何をもって「簡素で効率的な行政」とするのか、
(ii) 何をもって「国民の主体性を尊重する行政」というのか、
(iii) 何をもって「国民に開かれた信頼される行政」というのか、
(iv) 何をもって「国民に対する質の高い行政サービス」というのか、
という、その評価・判定・判断の基準となる原則論がはっきりと見えてきません。
 おそらく、各論を詳述することで原則論がおのずと明らかになるのではという意図があるのかもしれませんが、原則論は原則論として明確にしておく必要があると筆者は考えます。

 もちろん各論は各論で大切なことはいうまでもありませんし、各論主体の行政改革を筆者は否定するものではありません。たとえば、規制緩和では二千前後の項目がリストアップされているという話を聞きますが、順序立ててスムーズに規制緩和策を実行に移していただきたいと願っています。(本稿では、各論についての議論は省きます。)

 なお「Voice」誌、平成9年4月号に、中曾根元内閣総理大臣と瀬島龍三氏お二方の対談が『橋本行革の二〇三高地』という題名で収録されています。ここに土光敏夫氏を会長とする第二次臨時行政調査会(第二臨調)がどのように展開していったかの興味深い事実が語られていて、行革を考える上で大変参考になります。この第二臨調は、結果をみると、上述の各論が主体の行革ではなかったかと推察します。

 さてここで、各論と同時に、原則論の論議・展開が必要であると筆者は申し上げたいのです。そうしておかないと、行政改革は今後五年ないし十年程度の周期の定期行事になってしまう可能性があります。
 もちろん「行政改革」という「仕事」を周期的に創出するという意味で、それはそれでいいのかもしれません。しかしなるべくなら行政改革は一回きり、一度で片づけよう、という心構えで、政府・省庁・国会議員のみなさん、関係者のみなさんに対応し臨んでいただきたいと考えます。
 また、行政改革の目的の一つを「行政の実状を国民のだれもが理解できるようにわかりやすくすること」とするなら、そのための一助として、行政評価の手法・基準、行政指標および行政チェックリストを策定し、国民に対しはっきりと提示・公開することが政府並びにそれを支える国会の必要かつ不可欠の仕事と考えます。

 そこで、行政改革の原則としての行政評価の手法・基準を論議する手だてとして、行政評価の手法・基準の定式化、並びに行政指標および行政チェックリストの策定(これを「行政評価のシステム化」と呼ぶこととします)を足がかりとした、民主党提案の行政監視院とは異なる「行政評価・監視機関」の設立をここで提案させていただきます。

(堀場康一) 

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(Ver. 1.0 2002/07/08)
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