¶ 名古屋日記 ¶


2004(平成16)/10/07 (木)
◇ 自由を見つめなおすきっかけ
 (エーリッヒ・フロム著『自由からの逃走』日高六郎訳、東京創元社)


 エーリッヒ・フロムはドイツのフランクフルトで生まれ、その後ナチに追われて渡米しました。『自由からの逃走』初版は1941年、第二次世界大戦のさなかに出版されています。

 フロムはその序文で、「しかし私は、心理学者は必要な完全性を犠牲にしても、現代の危機を理解するうえに役立つようなことがらを、すぐさま提供しなければならないと考えるのである」と述べています(邦訳書3頁)。ここにフロムの、世界で現実に生起している出来事に対する、学者としての態度・責任感をうかがうことができます。

 自由や平和がフロムの生涯の関心事でした。これらの主題を追求する時、「たんにそれを政治的あるいは社会構造上の問題としてだけでなく、社会心理的あるいは個人心理的次元に降りて」分析し議論を展開しています(邦訳書336頁)。

 またフロムは、自由それ自体を歴史的背景のなかで考察し、「人類の歴史は個性化の成長の歴史であり、また自由の増大していく歴史である」と述べています(邦訳書260頁)。その際、自由をたんに量的なものとしてでなく、質的な面の重要性に触れています。この「自由の増大していく歴史」をフロム流の歴史の進歩観ととらえてもよいでしょう。

 本書のように「自由」という命題を真正面から取り上げた例はあまりありません。その上、自由を考える上での手がかりが随所に織り込まれています。それが、出版されて半世紀以上たった今も本書が広く読み継がれている大きな理由かもしれません。

 日々の生活のさまざまな場面で、「自由」にまつわる議論がなされているような気がします。この本が自由を見つめ直すきっかけになればと思います。



関連リンク

エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』ノート





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