アピール

国防の基本方針 国民投票で合意を

*「産経新聞」1998年12月6日付に掲載 (補注)



国防の基本方針 国民投票で合意を

堀場康一


 防衛庁調達実施本部の背任事件・証拠隠滅疑惑は、防衛庁長官の辞任に発展したが、相変わらず、防衛論議から抜け落ちていることがある。

 それはわが国の国防の基本方針に関し、いまだに国民的合意ができていないことだ。

 インターネットの防衛庁ホームページに掲載された「国防の基本方針」によれば、「国際協調など平和への努力の推進と民生安定などによる安全保障基盤の確立」、さらに「効率的な防衛力の整備と日米安保体制を基調とすること」が基本方針として掲げられている。

 わが国の現状をみると、「防衛力」を担っているのは自衛隊である。また「日米安保体制」は、日米安保条約によって維持され、在日米軍が補完的な役割を果たしているといえる。

 これまで政府や国会で、自衛隊や日米安保条約(在日米軍も含む)の地位や役割について、幾度となく議論がなされ採決が行われてきた。しかし、自衛隊や日米安保条約の地位や役割について国民が直接投票し判断を下す機会は、戦後一度も与えられていない。

 自衛隊や日米安保条約を含む国防論議は、憲法第九条(戦争の放棄、戦力および交戦権の否認)との関係から憲法改正に準じ、一度は国民投票にかける必要があると私は思っている。

 この国民投票によってはじめて、国防の基本方針に関する国民的合意が得られるといってよい。

 国民投票にかける場合、その対象となる議案をどのようにまとめるかがポイントになる。

 一つの方法は、「現在の自衛隊、日米安保条約および在日米軍に基づく防衛体制がYESかNOか、国民に信を問う」ことである。

 さらに、「国会で各議員に、おのおの国防案を提案してもらい、それらの案につき国会討論をした後、衆参両院で各案の賛否投票を行う。そして賛成票の多い上位五−六件の国防案を選び、それらを国民投票にかけ、最終的にどれか一つに決定する」という方法もある。

 他にもさまざまな方法が考えられるが、どの方法を採用するかは国会で十分に議論する必要がある。

 このような国民投票を通じて国防の基本方針に関する国民的合意ができたなら、わが国として諸外国に対し、もっと積極的な安全保障・外交政策を展開できるようになると思う。

以上


 (補注)

・この記事について

 「国防の基本方針 国民投票で合意を」は、1998年(平成10年)12月6日付「産経新聞」談話室 <アピール>欄に掲載されたものです。転載するにあたり、産経新聞社の許諾を得ました。(堀場康一)

 → 産経新聞社ホームページ http://sankei.jp/

 なお、2007年(平成19年)1月9日に「防衛庁」は「防衛省」に組織を移行しましたが、本文中では「防衛庁」をそのまま使用しています。

 防衛庁が防衛省へ昇格したとはいえ、ここで指摘した国防の基本方針に関する国民的合意は、いまも必ずしもできていません。

・防衛省・自衛隊の参考リンク

 → 防衛省・自衛隊ホームページ http://www.mod.go.jp/

 → 防衛政策の基本 http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/seisaku/kihon03.html
   国防の基本方針およびその他の基本政策について解説されています。

 → 国防の基本方針 http://rnavi.ndl.go.jp/politics/entry/bib01269.php
   1957年(昭和32年)5月20日 国防会議及び閣議決定。
   国立国会図書館リサーチ・ナビ (http://rnavi.ndl.go.jp/) に収録されています。

・関連する筆者の記事

 →憲法論議と通説(衆参両院・憲法調査会へ提出)



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